この照らす日月の下は……
57
ドアが開く。同時に明るい赤毛が室内をのぞき込むように現れた。
「キラ、起きてる?」
眠っているならば起こさないように。そう考えているのだろう。控えめな声量でそう問いかけられる。
「起きているよ、フレイ」
言葉を返せば彼女は小さな笑みを浮かべた。そのままするりと室内へと滑り込んでくる。
「ご飯持ってきたんだけど、食べられる?」
そう言いながら彼女は料理ののったプレートを差し出してきた。
「ありがとう」
このような状況だからか。プレートの上に並んでいるものは質素なものだ。だが、食べられるだけいいのではないか。
「フレイ達は食べたの?」
「一応ね。でも、どうせならキラと一緒に食べたいな」
「仕方がないよ。あの人達が認めてくれないから」
自分がこの部屋から出ることを、とキラは心の中だけで付け加える。今もブランケットで隠してはいるが、足首から伸びる鎖が壁に埋め込まれた枷へとつながっているのだ。
それは自分を恐れていると言うよりはカナードとカガリに対する牽制だと言うこともキラはわかっている。
あるいは、オーブに対する人質か。
だから、自分をここに押し込めておきたいのだろう。
「……キラだってあたし達と同じなのに」
それなのに、どうしてここで隔離されなければいけないのか。フレイはそうつぶやく。
「それとも、まだ、けがが痛むの?」
不安そうな表情で彼女はキラを見つめてきた。
「大丈夫。ただ、少し傷跡が残っちゃっただけ。オーブに戻ったら、すぐに消せるくらいの」
誰に見せるわけでもないから、とキラは笑ってみせる。
「……やっぱり、あの人、許せない」
フレイはそうつぶやく。
「それよりもミリィは元気? 顔を見せてくれないけど」
「元気よ。カガリさんと何かやっているみたい」
トールも手伝わされているようだ。そう彼女は続けた。
「何か、とっても嫌な予感がするんだけど」
とんでもないことをしでかしてくれそうだ。ストッパーであるサイの名前がないことがさらに不安を煽ってくれる。
「大丈夫じゃないかな?」
フレイはそう言って笑う。
「何かあっても、あっちが悪いんだし」
「それはどうなの?」
「嫌なら、キラをここから出してあたし達と同じ部屋にしてくれればいいのよ」
「……それって脅迫?」
「ただのお願いでしょう」
いや、違うと思う。そう告げたいキラの言葉は何故か声にならなかった。
「さすがに、今のままじゃあれこれまずいぞ」
ムウがため息交じりにそう言う。
「第一、どうするんだ? あのお嬢ちゃんの一件で完全にあの二人を敵に回したぞ」
「それでも、彼等はここにいるんですよ?」
バジルールが即座にそう言い返してくる。
「だが、あの二人には『動かない』と言う選択肢がある。そして、いざとなっても他のメンバーを連れて救命艇に閉じこもればいいだけだしな」
キラが置かれている状況を説明すれば彼等は間違いなく被害者として扱われるだろう。
「……やはり、彼にストライクを操縦してもらう可能性はないのでしょうね」
ラミアスがため息とともに言葉を発する。
「大尉!」
「説得できるの? それとも、あの子達を人質に取る? 本当に国際問題になるわ」
その責任をとれるのか、とラミアスはバジルールに問いかけた。
「少なくとも、私は軍人としての矜持を捨てたくはない。今の状況ですら、既にグレーゾーンなのよ?」
キラを閉じ込めておくことすら、と彼女は付け加える。
「確かにな。ただの民間人を鎖で拘束するのはやり過ぎだろう」
ムウはそう言ってバジルーるをにらみつけた。
「少尉、あなた……」
「今すぐ彼女を自由にしろ。最低でもトイレに行けないのはまずいだろうが」
同じ女性として自分がその立場だったら我慢できるのか、と付け加えたのはセクハラにはならないはずだ。
「そうね。今すぐ外して。これは命令よ」
ラミアスが顔をしかめながらそう言う。それにバジルールはしぶしぶといった様子でうなずいて見せた。